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LINKの知識を実践に活用する ― 海外の取り組み

2023年11月17日 掲載

目次:
動物虐待と対人暴力の連動性「LINK」とは?知見を実践に活用する
啓発活動・市民教育
クロスレポーティング
クロストレーニング
暴力の被害にあっている人間と暮らすペットを保護する取り組み
「LINK」の知識を活かし、人も動物も暮らしやすい世の中へ


動物虐待と対人暴力の連動性「LINK」とは?知見を実践に活用する

「動物虐待はその他の犯罪の予兆」という主張に代表されるように、動物虐待と様々な対人暴力がつながっているということは、当法人で度々発信してきている通りである。この「LINK」と呼ばれる動物虐待と対人暴力の連動性については海外で様々な調査研究が実施されており、ある程度科学的根拠を持って、動物虐待がその他の犯罪や反社会的行動、そして子ども虐待やドメスティック・バイオレンス(DV)などの家庭内暴力と連動しているということが言われているのである。また、動物虐待は、暴力を助長するリスクがあるなど目撃する者にも悪影響を及ぼしかねないとも言われている。しかし、動物虐待が対人暴力とつながっているということがわかったところで、その知識をどのように社会に還元していけば良いのであろうか。以前の無料記事では子どもの見守りにおいてLINKの知識を活用することができるという点を整理したが、本記事では、「LINK」の知見の実践への活かし方について、海外でどのような取り組みが実施されているかについて概観することとする。


啓発活動・市民教育

「LINK」の知識を実践に活かす際に、今すぐ誰にでもできることとして挙げられるのが、啓発活動や市民教育である。動物虐待と対人暴力が密接に関係しているということを市民に知ってもらい、動物虐待と、その他の犯罪や家庭内暴力などの人間に対する暴力双方の予防や早期発見につなげるのである。海外では、大手の動物保護団体が全国規模の大きなキャンペーン1)を展開していたり、自治体が対人暴力に対応する社会福祉や警察当局関係者と動物虐待に対応する動物保護当局などを巻き込んで啓発活動に取り組んでいる例もあるが、組織的なキャンペーンを展開する資金や人材が確保できずとも、草の根的な啓発活動であれば誰でもすぐに取り組むことができる。例えば、最近ではSNSや動画配信サイトなど誰でも気軽に無料で情報発信できるプラットフォームがたくさんある。このような、自分の活動や事業のソーシャルメディア上でLINKに関する情報を定期的に発信する形での啓発活動・市民教育であれば、労力をかけることなく、少ない資源で誰でもすぐに始めることができる。当法人でも、SNSで情報発信したいという関係者が使えるリソースとして、LINKに関するインフォグラフィックを公開している。
たくさんの市民が動物虐待と対人暴力がつながっていることを認識するようになれば、動物虐待をきっかけに殺人や暴行などの事件を未然に防ぐことができた、DVが発生している家庭で暴行を受けている被害者と共にペットの犬も保護することができた等々、それぞれの暴力から芋づる式にもう一方の暴力の芽を早期発見でき、早期対応が可能となる確率が上がるということである。


クロスレポーティング

もう一歩踏み込んだ「LINK」の知見の実践への活用方法として主に北米で展開されている取り組みがクロスレポーティングである。一言で説明すると、クロスレポーティングとは、対人暴力に対応する関係者(例えば社会福祉当局)と動物虐待に対応する関係者(例えば動物保護当局)の間における情報共有体制・相互通報体制である。例えば、子ども家庭福祉当局のケースワーカーが、子ども虐待の疑いがある家庭を訪問した際に、不自然な怪我をしたペットの犬がいることに気づいた場合、この情報をしかるべき動物保護当局と共有できるような体制を敷くのである。逆に、動物保護当局が動物虐待の疑いがある家庭を訪問した際に、子ども虐待が疑われるような様子の子どもがいた場合、同様にこの情報を動物保護当局のほうから子ども家庭福祉当局に共有することができる体制も整えておくのである。このような、関係者同士の相互通報・情報共有のことをクロスレポーティングというのである。
このクロスレポーティングは、アメリカの州のいくつかにおいて、州法レベルで法整備されている状況がある。例えば、先に挙げた子ども福祉と動物保護の関係者間におけるクロスレポーティングについては、子ども家庭福祉当局の関係者(例えばケースワーカーなど)と動物保護の関係者(例えば動物保護当局の動物虐待査察官や、民間の獣医師)がお互いの管轄する虐待・暴力を相互通報しなければならないという、相互通報を義務付ける規定が州法に盛り込まれている地域も存在するのである。
クロスレポーティングの利点として、従来その暴力の形態を管轄する関係者が見つけにくいケースも早期発見できる可能性が広がり、より多くの関係者が動物虐待と対人暴力双方に気を配る体制を築くことができるということが挙げられる。啓発活動・市民教育の部分で述べた通り、市民のみならず専門家においても双方の暴力形態にアンテナを張る人数を増やすことにより、いかなる暴力も効率よく発見し、適切な支援につなげていくということを法令に落とし込んだLINKの知見の活かし方なのである。
クロスレポーティングについても、当法人のニュースレターで特集しているので、そちらもぜひ参考にしてほしい。


クロストレーニング

クロスレポーティングのように多職種間の連携が求められる体制を敷く場合、それぞれの関係者がLINKをはじめ、お互いが管轄する暴力の形態(例えばどのような場合に虐待を疑うのか)、そしてお互いの組織体制(通報の手続きはどのようになっているのか、また窓口や担当者はどこ・誰か等々)などについて知識を身に付けておかないと、なかなかスムーズに連携することは難しい。このようなLINKに関する知識やお互いが管轄する暴力形態、それぞれの組織体制や関係法令に関する相互教育の取り組みは多職種連携には必須であり、これを「クロストレーニング」という。
やり方は様々で、ワークショップ形式で動物虐待に対応する関係者と対人暴力に対応する関係者を一同に集め、このような相互教育をするという方法もあるが、ここ数年続くコロナ禍もあり、オンラインのラーニングツールでこのような教育を提供する取り組みも増えてきているようである。例えば、イギリスにおいてLINKの情報普及に取り組むThe Links Group2) の「Understanding Animal Welfare in Violent Homes」3) というモジュールは、社会福祉などのヒューマンサービス関係者にこのような教育を提供することを目的としたオンライン教育ツールである(ターゲット層はヒューマンサービス関係者であるが、誰でも無料で利用できる)。
日本においても、多頭飼育崩壊(専門用語では「アニマル・ホーディング」)という特殊な動物虐待のケースに限定してではあるが、ごく一部の自治体が、動物関係当局と社会福祉当局間で、このようなクロストレーニングのような場を設けている。4)
なお、上記のThe Links Group のモジュールやクロストレーニングに関してさらに詳しく知りたいという読者は、ぜひ当法人のニュースレターも参照してほしい。


暴力の被害にあっている人間と暮らすペットを保護する取り組み

人間と動物それぞれに対する暴力がつながっているということは、家庭内暴力の被害者が共に暮らしているペットも暴力を振るわれている危険性が高く、人間の被害者のみならず、ペットについても暴力から保護する手立てが必要なケースも多々あるということである。この点においては、海外では特にDVの被害者において重要な課題として指摘されている。DV被害者が自分のペットにも危害が及ぶことを恐れ、ペットを置いて暴力的な家庭から逃げることをためらうあまりに被害者の「逃げ遅れ」がしばしば発生していることが、海外の複数の調査研究5)において浮き彫りにされているのである。このような背景があり、近年欧米中心に、DV被害者のペットを保護するプログラムが急速な広がりを見せ、アメリカではDV被害者のペットの保護を目的とし、このようなプログラムの助成を可能にした連邦法6)も成立している。
このようなDV被害者のペットを保護するプログラムには、大きく分けると三つの運営方法がある。一つ目は、DV被害者がペット同伴で避難できるDV被害者シェルターを作るということである。動物を受け入れられるよう、施設のインフラを整え、ルール作りに取り組む必要があるが、飼い主がペットと離れることなく避難できるという利点がある。二つ目は、DV被害者がDVシェルターなどに避難している間、DV被害者のペットを動物保護団体に一時預かりしてもらう方法である。動物を保護する設備を既に持っている団体にペットを預かってもらうので、インフラなどに関する投資をせずとも取り組める方法である。三つ目の方法は、本来動物保護に携わっていない第三者に、DV被害者のペットを一時預かりしてもらうやり方である。具体的には、獣医科病院やペットホテルなど、動物舎を持っている事業に一時預かりを依頼したり、またDV被害者支援団体によっては、一時預かりのボランティアのネットワークを作り、そのネットワーク内でDV被害者のペットを預かるというサービスを展開しているところもある。いずれにせよ、このようなプログラムを運営する場合、社会福祉関係者と動物関係者の協働は必須であり、プログラムを設計するにあたり、両者で様々な取り決めをしなければならないことは言うまでもない。
このようなDV被害者のペットを保護するプログラムについては、当法人で指針を販売しているので、ぜひそちらも参考にしてほしい。


「LINK」の知識を活かし、人も動物も暮らしやすい世の中へ

上記のように、海外では動物虐待と様々な対人暴力が連動しているという「LINK」の視点のもと、人にとっても動物にとってもより良い社会を築き、必要な者に適切な支援が届くようにするための取り組みが展開されているのである。近年、人間の福祉と動物の福祉が表裏一体であることを謳う「ワンウェルフェア(One Welfare)」という概念が世界的に注目されているが、「LINK」は人と動物双方に対する暴力がつながっており、人が安心して暮らせるところでは動物もまた安心して過ごせるというワンウェルフェアの具体例なのである。人と動物が共生し、より豊かに暮らせる世の中を実現するために、「LINK」の知見は実践現場で活用され始めているのである。
なお、動物虐待と対人暴力に関する調査研究の動向や海外の取り組みなど、「LINK」に関する多岐にわたる学術的知見について詳細を知りたいという読者は、ぜひ当法人の有料電子資料「動物虐待と対人暴力の連動性〜動物に対する暴力と人に対する暴力の表裏一体の関係性を探る〜」も参照してほしい。また、動物虐待への対応にどのように「LINK」の知識を活かすことができるかについては同じく当法人の有料電子資料の「LINKの視点から考える、動物虐待への対応システムと課題〜人と動物双方がより健やかに 暮らせる社会に向けて〜」、そして子どもの安心・安全を守る実践におけるLINKの知識の活用については「LINK の知識を子どもの見守りに活用する 〜子どもの安心・安全における「動物」という要素〜」をそれぞれ参照してほしい。


1) https://www.humanesociety.org/sites/default/files/docs/first-strike-violence-connection.pdf
2) https://thelinksgroup.org.uk/
3) https://www.virtual-college.co.uk/courses/safeguarding/understanding-animal-welfare
4) https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/r0303a/full.pdf 
5) Monsalve, S., Ferreira, F. & Garcia, R. (2017). The connection between animal abuse and interpersonal violence: A review from the veterinary perspective. Research in Veterinary Science, 114, 18-26.
6) 通称Pet and Women Safety Act (PAWS Act)、H.R.2 - Agriculture Improvement Act of 2018の一部として成立した: https://www.congress.gov/115/plaws/publ334/PLAW-115publ334.pdf

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