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無料記事12:アニマル・ホーディング
 〜動物と人間の福祉を脅かす社会問題〜

2020年09月11日 掲載

目次:
1:アニマル・ホーディングとは
2:人間の健康・福祉の問題でもあるアニマル・ホーディング
3:誰が、どのように対応すべきか


1:アニマル・ホーディングとは


高齢の女性が一人で住んでいる近所の「猫屋敷」と噂される家屋から異臭がすると近隣の住民から苦情があり、行政の担当職員が家を訪問してみると、家の中はおびただしい数の猫と床が見えないほどの猫の糞尿で埋め尽くされていた… 近年、このようにゾッとするような動物の「多頭飼育崩壊」現場が報道で度々取り上げられている。

これは、海外では「アニマル・ホーディング」と呼ばれる、世話がしきれないほどの動物をためこんでしまい、結果、衛生状況を保てず動物たちを劣悪な環境で飼育することになってしまういわゆる「多頭飼育崩壊」の典型例である。一見、動物問題と思われがちなこのアニマル・ホーディング、実は「動物問題」だけでは片付けられないということをご存じだろうか。
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2:人間の健康・福祉の問題でもあるアニマル・ホーディング


アニマル・ホーディングは、その現場にいる動物の福祉はもちろん、動物を集めてしまった当事者である人間の健康や安全も脅かしかねない問題なのである。また多くの場合、当事者がメンタルヘルスの問題を抱えていたり、生活困難な状況に陥っており、そこにいる動物だけではなく、当事者にも社会福祉的支援が必要な状況があり、動物と人間双方を包括的に支援していくことが求められる多面的解決が必要な社会問題なのである。

実際、アニマル・ホーディングは精神障害の診断に使われる指針である、「精神疾患の診断・統計マニュアル (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, DSM)」1)において、「ためこみ症」の項に掲載されており、この事実自体が、アニマル・ホーディングが単純な「動物問題」では済まされないということを物語っている。

「ためこみ症」とは、大量の物品を収集し、それにより生活空間上や社会的な機能不全を起こしてしまっている状態のことを指す。いわゆる「ゴミ屋敷」のように、新聞紙、空ビンや雑貨など、大量に物をためこんでおり、それにより住居の衛生面、生活動線や、家屋の崩壊などの安全面に支障をきたす状態と言えば、具体的にイメージしやすいであろう。

しかし、アニマル・ホーディングは、無機質な物品をためこむよりも、より複雑かつ重篤な問題を呈する。新聞紙、空ビンや雑貨などと異なり、動物は生き物であるため、排泄をしたり、動き回ったり、病気になったり、死亡したりするのである。したがって、物品よりも公衆衛生上のリスクとなりうる可能性も高いのである。海外のアニマル・ホーディングの事例を分析した調査では、50匹以上の猫とその他様々な動物と不衛生な状況の中に住んでいたアニマル・ホーダーの子どもたちが、呼吸器感染で常に学校を欠席していた事例や、犬を大量に集めてしまったアニマル・ホーダーの家でノミが大量発生し、近隣の学校にまでノミの大量発生が波及し、学校閉鎖に至った事例まで報告されている。2)日本でも、2階建ての住居兼店舗の建物において犬を大量に飼育していたアニマル・ホーディングのケースで、犬の糞尿の重みで床が抜け落ちてしまったケースなどが報告されている。

無論、上記のような世話が行き届かないほど不衛生な状況下で動物を飼育することは動物のネグレクトであり、動物たちを苦しめる動物虐待であることには間違いない。しかも、いわゆる「動物虐待事件」として報道されるケースと比べて、アニマル・ホーディングは、時には数百匹にも及ぶ大量の動物を不衛生な状況下に置くことで長期間苦しめることになるという点では、最大級の動物虐待であると言っても決して過言ではない。これに加え、上記の例からわかるように、アニマル・ホーディングは、そこで暮らす大量の動物と等しく、そこで生活する当事者であるアニマル・ホーダーの健康や安全も脅かす事態なのである。

当事者のメンタルヘルス上の問題や生活の困難さ、社会的孤立などもアニマル・ホーディングにおいては指摘される点である。すべてのアニマル・ホーダーが必ずしも生活困難を抱えており機能不全に陥っているとは限らないが(先の海外の事例分析の調査では、アニマル・ホーディングの当事者の中には、教員やマーケティング業界など、いわゆるホワイト・カラーの職に就く者もいた!)、アニマル・ホーディングの事例では当事者にも何らかの社会福祉的支援が必要なケースが度々浮上する。環境省が日本の状況について最近実施した調査3)では、調査対象となった多頭飼育の事例の過半数以上において経済的に困窮している状況が認められ、また健康上の問題や何らかの障がいを抱えている、またはその疑いがあるケースが複数認められたと指摘されている。
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3:誰が、どのように対応すべきか


このように、人間である当事者とそこで飼育されている大量の動物双方の健康と福祉を脅かすアニマル・ホーディングであるが、特に日本においては、今まではこの問題に対してはまずは動物愛護管理当局が対応を迫られるという流れがあった。動物愛護管理当局の職員は、動物のネグレクトの部分に対しては対応できる。しかし、当事者が健康上または生活上の支援を必要としていたり、何らかのメンタルヘルス上の問題で、動物に対するケアや所有権放棄を促すための意思疎通が難しかったりした場合、その対応は動物の専門家である動物愛護管理当局の対応できる範疇を超えるものであり、社会福祉や心理などの人間を対象とする専門家の対応が必須なのである。

それでは、人間も動物も不幸な目にあうアニマル・ホーディングという社会的課題に対して、どのように対応していけば良いのだろうか。アメリカをはじめ、欧米で定石となりつつあるのが、タスク・フォースのような多職種から成るチームアプローチである。上記のように、アニマル・ホーディングは、動物はもちろん、そこに住む当事者に対する社会福祉的支援が必要であったり、さらには住環境の公衆衛生や物理的安全が脅かされている状況でもある。よって、動物愛護管理当局はもちろん、社会福祉当局、公衆衛生や住環境当局、法の執行官など、様々な部局や専門家のチームで包括的な解決策が取れるような体制を整え、かつ一つの当局に過剰な負担がかからないように対応・モニタリングするというアプローチを取るのである。日本でも、動物愛護管理当局と社会福祉当局が連携する自治体が少しずつ増え、先の環境省の調査3)でも、日本で初動対応を行う部署として単独で対応を迫られがちな動物愛護管理行政が、個別のケースにおいては7割ほどの自治体において、アニマル・ホーダー宅への同行など、社会福祉当局から協力を得られていることが報告されている。ただ、やはり日本においては、動物愛護管理当局と社会福祉当局の定期的・継続的な連携がある自治体は1割にも満たないとのことである。

繰り返しになるが、これまで解説してきたように、アニマル・ホーディングは決して「動物」だけの問題ではない。問題の渦中にいる人間と動物双方の福祉や生活の質を担保するためには、人間と動物双方の福祉の専門家が一丸となってこの社会問題に取り組む必要があるのである。当法人では、アニマル・ホーダーの特性や海外での対応方法などを解説した、いわばアニマル・ホーディングの概論的な資料である「アニマル・ホーディング: 動物と人間の課題への対応」を販売している。アニマル・ホーディングへの対応の最前線で取り組んでいる関係者はもちろん、社会福祉や動物福祉・動物愛護管理の専門職の方々にはぜひ活用してほしい。また、当法人のYou Tube チャンネルでもアニマル・ホーディングに関する動画を公開しているので、そちらもぜひご覧いただきたい。
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1) American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition DSM-5®. Washington, DC: American Psychiatric Association Publishing.
2) Arluke, A., Frost, R., Luke, C., Messner, E., Nathanson, J. & Patronek, G.J. (2002). Health implications for animal hoarding. Health & Social Work, 27, 125-136.
3)http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/renkei/r01_03/mat02_2.pdf

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