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無料記事2:アニマルウェルフェアの落とし穴とOne Welfareの概念
2018年01月10日 掲載
「アニマルウェルフェア」の落とし穴とOne Welfare の概念
近年、「アニマルウェルフェア」というカタカナ用語が横行しているようである。
これは一体どのような現象であろう?まず一つに、アニマルウェルフェアという言葉は日本語に直訳可能である。動物福祉、ということなのであるが、どうもその訳語を使いたがらない輩が存在するようでもある。2017年の夏に、あるテレビ番組で、オリンピックに向けての準備として選手村で提供する食材に焦点を当てるべきであるという主張がなされていた。
オリンピックの規定により動物由来の食材に関しては、元の動物の育成方法が福祉に則ったものである必要があり、そのようなものを求めると、日本国内で生産された食物が提供できないのではないか、という課題が中心の議論が展開されていた。この問題を取り上げたことはそれなりに評価するべきであろう。
しかし、番組の中で進行役、コメンテーター、そして取材先の専門家等々全員が、そのような食材のことを「アニマルウェルフェアの肉」と称していたことには違和感をおぼえた。農業動物の福祉は今や世界を駆け巡る重要課題であり、各国で取り上げられている。むろん、各国の言語で動物福祉に匹敵する文言が使われているのである。なぜ日本だけが英語をそのままカタカナにしているのであろう?それには二つ原因がある。一つは農業動物に関わる生産者、行政等々の関係者たちが、「動物福祉」という言葉を怖がっているからであろう。
「牛や豚はペットとは違う!」という主張をしたいがために、また必要以上に動物福祉団体などに踏み込まれないように一線を引いている、ということではなかろうか。
しかし、これは誤った考え方である。言うまでもなく、豚などに限らず、犬や猫でもその生活の質を保つためにしなければならないことはすべて異なるのである。動物種によって提供されるべき飼養管理体制が異なるのは当たり前のことであり、各種農業動物にペットの犬や猫と同じ飼養管理をしろということを動物福祉運動が目的としているわけではない。動物の福祉とは何かをより広い視野で考えなければならないのである。我が国の動物福祉運動はどうしても犬猫に偏ってしまうようであるが、1965年に英国の公的委員会、ブランベル委員会が、畜産の現場の改革に必要であると提言した5つの自由という基本概念がどの様な動物の育成現場であっても守られるべきであるという主張が、現在世界中で認められている。言い換えれば、ペットだけではなく農業動物、展示動物、実験動物等々にもこの基本が当てはめられるべきであると言われているのである。
このことがもととなり、オリンピックなどの規定にもそれが反映されるようになったのであろう。また、最近ではワンウェルフェア(One Welfare)という概念も国際的に語られるようになってきた。人獣共通感染症などを取り上げ、医療や保健の世界ではワンヘルス(One Health)という言葉が使われるようになったが、それに次いで福祉も一つであると言われるようになってきた。例えば、過密状態で家畜を飼育すれば病気などになりやすくなる。そのために、抗生物質を低量で継続的に与え、家畜の病気を予防するという手段が畜産の現場では用いられてきたのである。このような手段を用いれば、当然耐性を有する病原体が出現し人間を脅かすようになる。
これがまさに今起こっていることであるが、動物の飼育状況を改善し、このような手段を用いる必要のない健康的な飼育をすれば、その動物たちを食す人間の健康も守られる。つまり、生きている間動物が「幸せ」であれば、人間も「幸せになる」ということであろう。農業動物の福祉とは決してかわいそうな牛、豚、鶏たちを犬や猫のように「可愛がりましょう」ということではない。ハッピーな動物たちは、食材としても健全であり、それは人間の幸福にも貢献するということなのである。また、度々話題になる
動物虐待と人間に対する暴力の関連性
なども、ワンウェルフェアと関連した課題である。
動物に対する暴力と人間に対する暴力に同じ加害者がかかわっていることがしばしばあるが、これこそがまさに人間と動物の福祉がいかにつながっているかの証明でもあろう。
カタカナを使い、動物福祉という言葉を用いることに躊躇するもう一つの集団は、人間の福祉関係者である。どうやら彼らによると「福祉」とは人間専用の言葉であるらしい。広辞林1)によると、福祉とは「さいわい、しあわせ」である。人間の幸せとは明記されていない。人間同様、動物にも彼らなりの幸せがあって当然である。人間は福祉、動物はウェルフェア??
それこそ、何かがおかしいと感じざるを得ない。前述した暴力の連動性などは、まさに人間の福祉関係者に熟考していただきたい事柄であろう。
さらに残念なのは、一部の動物愛護団体などまでが、アニマルウェルフェアというカタカナ語を使い始めてしまったことである。動物の幸せ、彼らのそれを求める権利を主張しなければならない運動家たちまでもがウェルフェアという言葉を使い、「人間とは違う」という主張をあたかもしているように見えるのは実に情けない気もする。
福祉は生けるものすべてに共通する概念であろう。「苦しさ」を感じることができるものに苦しい思いはなるべくさせないように配慮する、このような単純な考え方のどこが難しいのであろうか?
人と動物両者の福祉のつながりは、ALRIの
VSWニュースレター
で毎回取り上げている。また、オリンピックに向けて食用動物の問題のみならず、観光客の目にさらされる展示動物も大きな問題である。これに関しては、海外の専門NGOが視察をした
日本のクマ牧場の現状に関する報告書
に目を通していただければ、問題の深さを感じていただけると確信している。
1) 1958年版
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