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無料記事13:人と動物の福祉は表裏一体!? 「ワンウェルフェア (One Welfare)」の概念に迫る

2020年12月17日 掲載

目次:
1:「ワンウェルフェア (One Welfare)」 とは
2:ワンウェルフェアの枠組みと五つの領域
3:「福祉は一つ」 ― 皆にとってより良い社会への道しるべ


1:「ワンウェルフェア (One Welfare)」 とは


「動物保護」と銘打って私たちが行っている様々な動物への配慮に関する取り組みが、実は「動物のため」だけではなく、人間にも恩恵がある場合が多々あるということについては、以前公開した無料記事6 で触れているが、近年、人間と動物と環境のウェルビーイングが表裏一体であるという概念が台頭してきていることをご存じだろうか。

この概念こそが、「ワンウェルフェア(One Welfare)」である。

冒頭で述べた通り、ワンウェルフェアとは、人間と動物と環境の状態が密接に関係しており、相関関係にあるということを謳った概念である。とても簡単に言ってしまうと、人間が健康で幸せであれば、その周りにいる動物も健康で幸せ、周囲の環境も良い状態にあるということである。代表的な例は、当法人でも度々扱っている動物虐待と対人暴力の連動性「LINK 」である。ここ20-30年間の調査研究により、動物虐待が、凶悪犯罪や、子ども虐待やドメスティック・バイオレンスなどの家庭内暴力と密接に関係しており、動物虐待が発生するところでは、人間にも暴力が振るわれている危険性が高いということが明らかになっている。動物虐待に注意を払うことにより、対人暴力を予防・早期発見でき、逆に対人暴力に注意を払うことが動物虐待の発見にもつながるということで、人間を対象とした社会福祉関係者にとっても、動物保護の関係者にとっても実践に役立つ知見として注目されている。

また、家庭内暴力の被害者が飼っているペットにも暴力が振るわれているケースでは、被害者が助けを求めるために避難したくても、ペットを置いていくことが心配で逃げ遅れてしまうというケースもあり、近年、家庭内暴力の被害者支援においては、人間も動物も包括的に支援する必要性が指摘されている。

LINKは、暴力が発生しているところでは、人間の福祉も動物の福祉も等しく脅かされている危険性があるというワンウェルフェアの具体例なのである(LINKについての専門的な知識をお求めの読者はぜひ当法人が販売しているテキスト(有料電子資料)も参照してほしい)。

上記の例のように、人間の福祉を気にかけ、それを向上させる過程において、動物の福祉は切っても切り離せない一要素であり、人間の生活の質を向上させるためには、そこにいる動物の福祉も向上させる必要がある場面はLINK以外でも多々存在する。そして、ワンウェルフェアは、LINKを含む様々な場面において、人間の福祉と動物の福祉、そしてさらには環境の状態が密接に関係しているという考え方を整理する概念なのである。

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2:ワンウェルフェアの枠組みと五つの領域


ワンウェルフェアの概念を整理したPinillos1) は、ワンウェルフェアが提供する枠組みが様々な社会的課題の解決に向けた実践に役立つ理由として、あらゆる領域を視野にいれた学際的な考え方を可能にするという点を挙げている。さらに、この枠組みを採用し、個人、地域社会、そして国際社会のそれぞれのレベルで包括的に動物福祉とその他関連領域の関係性を認識できるようにすることにより、様々な領域の官民の関係者が連携して世界中の社会的課題に向けて取り組む機運を醸成できることが指摘されている。

また、Pinillos1)は、このワンウェルフェアの枠組みにおいて、大きく分類した五つの領域を提唱している。これらは、1)冒頭で具体例を挙げた動物虐待と対人暴力の連動性、2) 動物福祉の社会的意義、3) 畜産動物の健康と福祉と、人間のウェルビーイング、食の安全、持続可能性の関連性、4) 動物や自然を導入した医療福祉プログラム、5) 生物多様性と、環境・動物福祉・人間のウェルビーイングの関連性である。

1)のLINKについては先程具体例を挙げて説明したが、2)においては、私たちの人間社会では、直接的な暴力にとどまらず、生活を共にするペットなどの動物の福祉が人間の健康や安全と密接に関係しているということが提起されている。例えば、最近日本でも度々問題視されるアニマル・ホーディング(多頭飼育崩壊現場)では、数多くの動物たちがネグレクトされていると同時に、当事者の人間にもメンタルヘルスや公衆衛生上の支援が必要なことが多々ある。また、災害や戦争などの緊急事態においても、飼い主がペットを守ろうと自らの健康や安全を顧みない行動を展開させることもあり、人間と動物両方を守るためにはそれぞれに対応する関係者が連携する必要も出てくる。

3)の畜産動物については、畜産動物の福祉が担保されていない状況は様々な感染症のリスクを高めるということが認識されており、最近では、畜産現場勤務者の生活の質とそこで管理されている畜産動物の福祉が密接に関係しているという調査も公表されている(詳しくはぜひPinillos1)の著書を参照してほしい)。また、畜産動物の福祉が担保されにくい工場的畜産(生産性と効率性を重視し、たくさんの動物を狭い場所に保管している畜産現場)は、温室ガスの排出や土壌・水源の汚染など、環境問題につながることも指摘されている。2) さらには、過密状態に置かれている家畜には、環境因子からくるストレスに打ち勝つための対策として、成長促進及び疾病予防を目的に抗生物質が与えられている場合もある。言うまでもなく、過剰な抗生物質の利用は耐性のある病原体の出現に大きく寄与することでもある。

さらに、人間と動物の関係者が連携する必要性などから、Pinillos1)は、4)の動物や自然を導入した医療福祉プログラムもワンウェルフェアの枠組みの一領域として提起している。いわゆるアニマルセラピーと言われるこれらのプログラムにおいては、当法人の無料記事4 でも解説したように、動物の福祉が担保された状態で、はじめて動物の「癒やし」の効果が発揮されるという考え方がある。「幸せな動物でなければ人間を癒やせない」という点においては、人間と動物の福祉が相関関係にあるという大前提を提起するワンウェルフェアの概念の中にうまく収まる。

最後に5)についてであるが、Pinillos1)は、例えば世界中の生物多様性の喪失に繋がる主要な要因として認識されている開発などによる生息地の消滅が、環境の状態の減退はもちろん、そこにいる野生動物の福祉(生息地がなくなるため)や生活環境の悪化などによるその地域に住む人間の生活の質の低下にもつながることを指摘している。例えば、我が国の歴史を振り返ってみると、水俣病は私たち人間の社会のみならず、現地の魚を食していた地域の猫たちにも甚大な被害をもたらしていたことをご存じだろうか。

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3:「福祉は一つ」 ― 皆にとってより良い社会への道しるべ


ここまで読み進めてくださった読者であれば、人間と動物の福祉、そして環境の状態が、あらゆる側面において、そして様々な領域において、密接に関係しているということをご理解いただけたと思う。そして、この人間・動物・環境の状態の表裏一体性を整理する傘となる概念こそがワンウェルフェアなのである。

メディア、学問、さらには政策など、様々な方面において、「動物」という課題が軽んじられる社会的風潮が未だに根強いと感じている読者は多いのではないだろうか。しかし、ワンウェルフェアにおいて示されている社会的課題における「動物」の重要性と、動物関係者とその他の領域の関係者の連携の必要性は、何も「動物好き」ではなくても、「動物のため」と思っていなくても、より良い社会を実現するためには枢要な要素であると言える。動物に携わる者に限らず、様々な分野の専門家がアニマル・リテラシーを身に付けることが必須であることを物語っているのではないだろうか。

人、動物、時空を共有する者たちにとって福祉は一つなのである。

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1) Pinillos, R.G. (2018). One Welfare A Framework to Improve Animal Welfare and Human Well-Being. Boston, MA: CAB International.
2)Compassion in World Farming (2009). Beyond Factory Farming Sustainable Solutions for Animals, People and the Planet. Retrieved, March 20, 2020, from https://www.compassioninfoodbusiness.com/media/3817096/beyond-factory-farming-report.pdf

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