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動物虐待の目撃、見ている人に悪影響?
2022年2月1日 掲載
目次:
動物虐待と対人暴力の連動性、動物虐待を目撃する周囲の人間にも悪影響…
動物虐待の目撃が及ぼす影響は?
1. メンタルヘルスへの悪影響
2. 「暴力に対する鈍化」の促進
3. 「暴力を学習する機会」の提供
人間と動物双方にとって、よりやさしい社会のために
動物虐待と対人暴力の連動性、動物虐待を目撃する周囲の人間にも悪影響…
「動物虐待が犯罪の予兆」と度々メディアで報道されているように、動物虐待と対人暴力は実は密接に関係し、連動している現象なのである。
海外においては「
LINK
」と呼ばれるこの動物虐待と対人暴力の連動性は、報道だけではなく、科学的な調査研究でも知見が蓄積されつつあるが、このようなLINKの研究において、動物虐待は、それを目撃してしまう周囲の人間に対しても悪影響を及ぼしかねないことが示唆されていることをご存じだろうか。
様々なLINKの調査研究を紐解いていくと、人間に対する暴力が発生しているところでは、動物も暴力を振るわれているのみならず、その暴力を目撃している周囲の人間にまで悪影響が波及しているという複雑な暴力の連鎖の構図が浮き彫りにされていることが見えてくるのである。
今回は、LINKの様々なトピックスの中でも、動物虐待の目撃が周囲の人間に及ぼす影響について概観したい。
動物虐待の目撃が及ぼす影響は?
動物虐待がその目撃者に及ぼす危険性があるとされている悪影響は、主に三つに分けることができる:(1)メンタルヘルスへの悪影響、(2)「暴力に対する鈍化」の促進、(3)「暴力を学習する機会」の提供である。ここからはこれらの悪影響について具体的に見ていきたい
1. メンタルヘルスへの悪影響
まず、たとえ人間ではなくても、生命体が暴力を振るわれ苦しむ様子を目撃することは、決して精神衛生上良いことではなく、目撃者に精神的負担がかかるであろうことは至極当然と言えよう。この点は、誰しもが直感的にそう推測できるであろう。実際、動物虐待の現場を目撃したことがある人間にそのできごとがどれだけ心に引っかかったかについて調査した研究
1)
では、7割以上が動物虐待を目撃したことが心にひっかかったと回答しており、やはり、人間ではなくても、生命体が苦しむ様子を目の当たりにすることは目撃者のメンタルヘルスにとって負担となる要素であることが示されている。
2. 「暴力に対する鈍化」の促進
対人暴力でも指摘されていることではあるが、動物虐待を繰り返し目撃することにより、動物虐待のような暴力に対する慣れが生じてしまい、たいしたことと思わなくなってしまうという現象が起こる場合がある。この暴力への所謂「慣れ」については、「脱感作効果」というものが作用していると言われている。「脱感作効果」とは、長期間暴力にさらされることにより、暴力に対する生理的・感情的な興奮状態が徐々に減っていくプロセスのことを指す。
この効果はもともと、恐怖症の患者に対して、不安を作り出す刺激への反応を徐々に鈍化させるという治療目的のために使われていたものである。恐怖症の患者が恐怖に感じる刺激について、刺激の少ない状態から慣し、その少ない刺激に慣れたらもう少し刺激を強くする… という形で長期間刺激に暴露されることにより、その恐怖対象に対する生理的・感情的な興奮状態が減っていき、砕けた言葉で言ってしまうと、その刺激に対して「鈍化が起こる」または「慣れる」という状態まで持って行けるという仕組みである。暴力においても似たようなメカニズムがあると言われており、暴力に繰り返しさらされるにつれて、暴力を目撃した際に起こる生理的・感情的な反応(例えば心拍数・血圧の上昇や、暴力から目をそらしたくなるような不安感)レベルが低下し、その結果暴力に「慣れた」状態になってしまうと言われているのである。
そして、動物虐待でもこの暴力に対する「慣れ」が起こり、繰り返し動物虐待を目撃することにより、暴力に対して鈍化していってしまうという危険性があることが複数の調査により指摘されているのである(具体的な調査研究のレビューについては、当法人が販売する電子資料「
動物虐待と対人暴力の連動性〜動物に対する暴力と人に対する暴力の表裏一体の関係性を探る〜
」、より簡単な研究結果一覧についてはファクトシート「
動物虐待への暴露が及ぼす影響
」を参照してほしい)。
3. 「暴力を学習する機会」の提供
人間が行動をどのように学習するかということを説明する理論の一つに「社会的学習理論」というものがある。この理論によると、人間は、その人にとって重要な他者(家族、友人、有名人など)が展開させている行動を見て学習し、その行動を模倣するようになるのである。暴力についても、周囲の人間が暴力を振るっているところを見て、それを真似ることによって学習すると言われており、動物虐待という行為についても、周りがやっているところを見て学習するという道筋があることが指摘されているのである。実際に、動物虐待の目撃とその目撃者による動物の虐待の関係性を検討した複数の調査研究において、動物を虐待することと、動物虐待の目撃経験に関係性があることが示唆されている。
動物を虐待することと動物虐待の目撃の関連性を左右する様々な要素を細かく検討した研究がいくつかあり、これらの研究では、複数回動物虐待を目撃すること、より若い年齢で動物虐待を目撃することや、家族や親友などの親しい間柄の人間が動物を虐待するところを目撃することなどが、特にその目撃者の「動物虐待の学習」のリスクになることが示唆されている(こちらについても、具体的な調査研究のレビューについては、当法人が販売する電子資料「
動物虐待と対人暴力の連動性〜動物に対する暴力と人に対する暴力の表裏一体の関係性を探る〜
」、より簡単な研究結果一覧についてはファクトシート「
動物虐待への暴露が及ぼす影響
」を参照してほしい)。
人間と動物双方にとって、よりやさしい社会のために
動物虐待の目撃が及ぼす影響については、まだあまりたくさんの調査研究が実施されているわけではなく、今後さらなる知見の蓄積が望まれるが、現時点で公表されている研究においては、この記事で概観した通りの悪影響を及ぼすリスクがあることが指摘されているのである。そうなると、動物虐待は虐待行為の被害にあう動物にとっても、そこに居合わせる人間にとっても良いことが一つもないどころか、このような行為を目撃することにより暴力を学習した人間が社会秩序を乱すことに寄与する可能性もあり得る、警戒すべき行為であると言えよう。
特に最近はSNSや動画投稿サイトなど、不特定多数の人間が視聴できる場所に動物を虐待する様子を撮影した動画を投稿するケースが問題となっており、「動物がかわいそう」、「教育上よくない」など、懸念を示す者も多くいる。このようなケースにおいてもその虐待行為の被害にあう動物はもちろん、それを視聴する側にも、本記事で概観した悪影響を及ぼすリスクがあるということを認識しなければならないのである。動物虐待の目撃は、人間と動物双方のウェルビーイングに悪影響を与え得る、まさに人間と動物の福祉の表裏一体性を謳った「
ワンウェルフェア(One Welfare)
」の概念の具体的な例なのである。
また、このように、動物虐待の目撃が人間に及ぼす影響について改めて考察してみると、動物の虐待的な扱いをできる限り減らすために、動物を尊重し適切に扱えるような社会を実現することを目的とした生命尊重教育・動物愛護教育の重要性も浮き彫りになる。「生命尊重」という概念的な目標だけではなく、実際に動物虐待を減らし、動物虐待の目撃による暴力の波及効果を食い止めるという点で必要な教育かもしれぬ(生命尊重教育・動物愛護教育については、当法人の
無料記事
もぜひ参照してほしい)。
人間と動物双方にやさしい社会を実現するためにも、動物の扱いにより一層真剣に目を向ける必要があるのかもしれない。
1)
Flynn, C.P. (2000). Why family professionals can no longer ignore violence toward animals. Family Relations, 49, 87-95.
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