ALRIについて
ENGLISH
サービス一覧・料金表
お問い合わせ
ライブラリー(無料)
ライブラリー(有料)
無料記事26:
袖すり合う動物たちの福祉について考える
2023年9月21日 掲載
目次:
動物愛護週間、ペット以外の動物たちは?
人間の飼育下にある野生動物たち
食用動物
実験動物
動物の福祉から広がる視野
動物愛護週間、ペット以外の動物たちは?
今月の9月20日から9月26日は、「国民の間に広く動物の愛護と適正な飼養についての理解と関心を深める」
1)
ための動物愛護週間として定められている。このため今月は、私たちと生活を共にする犬や猫などのペットたちとの生活や彼らの幸せについて考える取り組みが多く取り上げられ、各地でこのようなイベントが開催されている。しかし、私たちが日頃袖すり合っている動物たちは、このようなペットたちだけではないということを決して忘れてはならない。メディアなどではペットたちばかりが取り上げられているような印象をぬぐえないが、彼ら以外にも私たちが「お世話になっている」動物たちがたくさんおり、彼らの生活の質についても考えなければならないのである。この記事では、そんな彼らの生活の質、すなわち
動物福祉
について考えてみたい。
人間の飼育下にある野生動物たち
私たちの社会では、たくさんの野生動物たちが人間の飼育管理下にある。様々な野生動物を抱える動物園や水族館などの展示施設はもちろんのこと、一般の人々の間でもエキゾチック・ペットとして野生動物の需要がある。人間の飼育下における野生動物の福祉に配慮した飼養管理については様々な場面で議論されてきており、動物園の展示施設などにおいては、動物のニーズを満たすために色々な工夫を凝らしているところも増えてきている。しかし、動物種によってはどうしても飼育管理下では十分にニーズを満たすことが難しい種もあり、また施設によっては様々な事情により動物の福祉に対する配慮が行き届いていない場所も存在することは事実である。
このような中、欧米を中心に、動物への一層の配慮を求める市民の声は益々強まっており、そういった市民の声を受けて、展示施設が野生動物を使ったアトラクションを廃止したり、人間の飼育下でニーズを満たすことができない動物種の飼養を廃止するなどの決断を下した例も存在する。
2)
しかし、人間の飼養管理下にある野生動物の福祉については、単に動物への配慮という観点以外からも注目されているのである。新型コロナウィルスが猛威を振るって以来、人間と野生動物の接触のあり方については、人間の公衆衛生の観点からも関心が集まっているのである。新型コロナウィルスの発生源の諸説においてウイルスが野生動物由来であったと主張されているように、野生動物と人間の過度な接触は、動物たちから人間へ(または人間から動物へ)感染症を伝搬させる恐れがあり、人間の健康に大きな影響を及ぼすリスクがあるからである。実際、新興感染症(新しい、今まで未知だった感染症)の約6割において人獣共通感染症が寄与していると言われており、その多くの発生源が野生動物であることが指摘されている。
3)
野生動物を人間の懐深くに入れ、人間と不適切な接触を強いられる劣悪な環境で飼育するということは、動物福祉上の問題を呈するのみならず、そこから広がる感染症など、人間側の公衆衛生上の問題もはらんでいるのである。
食用動物
私たちの食卓に上がる食べ物の生産で誰しもがお世話になっている食用動物についても、近年、動物福祉への配慮を求める消費者の声が少しずつ大きくなっているという印象がある。「動物好き」の一般消費者が、自らが消費する食べ物についても、より動物への配慮が行き届いているものを選び、かつ声を上げ、その結果、食品会社や飲食業界では消費者の声を受け止め、動物福祉が担保された形で生産されたものを使うようになってきているのである。このような動向もあり、法令レベルでも少しずつ畜産動物の福祉に一層の配慮を義務付ける動きが出てきている。例えば、欧州連合では採卵鶏を身動きが取れない狭いケージに入れ過密状態で飼育するバタリーケージの廃止を定める指令
4)
により、段階的にこの飼養管理方法を廃止した。また、アメリカでもこのような生産性・効率性だけを追い求め動物福祉への配慮に欠く「工場的畜産(factory farming)」と言われる生産体制を規制する州が増えてきている。
5)
そして、食用動物の福祉に配慮することも、また人間の生活にとって恩恵をもたらすことが示唆されている。例えば、工場的畜産では当然動物に過度のストレスがかかる。そのため、動物の免疫力が低下し、病気に感染するリスクが高い場合もあり、この点が人間の食の安全や健康の課題となる場合がある。実際、ケージで飼育されている採卵鶏のほうがサルモネラのリスクが高いことなども示されている。
6)
さらには、畜産動物の管理は周囲の土壌や水源の汚染、そして温室効果ガスの排出など、公衆衛生や環境にかかわる課題も内包しているのである。大量の動物を一か所に集約させて飼育するということは、そこで発生する排せつ物などの処理が適切ではないと周囲の土壌や水源を汚染し、また空気中に放出された物質が温室効果ガスとなってしまうということである。
7)
このように、私たちの食卓に上がる動物たちがどのように暮らしているかについて気に留めることは、私たち自身の生活の安心・安全について考えることにつながるのである。
実験動物
基礎研究、高等教育機関での教育、そして私たちが日常的に使う製品の開発や安全性の担保に使われている
実験動物
たちの福祉も、また私たち人間の暮らしと密接に関係している。近年は、小さなチップに人間の臓器を再現する「臓器チップ」という技術
8)
など、ヒト生物学を基盤とした科学技術が続々と開発され、動物で得られたデータを人間に当てはめるのではなく、より人間に即した形で調査研究や安全性試験を実施できることが期待されている。動物を使わない「動物実験代替法」は、実験動物を使わないという観点から、動物保護関係者からも注目されているが、このような方法がより洗練されれば、将来的には人間の安心・安全につながるとも言われているのである。動物実験には、どうしても種差の問題がつきまとうと言われている。簡単に言ってしまうと、マウスを使ってどのように化学物質が影響を及ぼすかについて調べても、その結果はあくまでもマウスの身体での反応をみており、必ずしも人間の身体での反応を正確に評価した結果ではないということである。このため、人間に対する化学物質の影響をより正確に評価でき、かつ動物実験よりも効率の良いヒト生物学ベースの技術が期待されているのである。
9)
動物実験を直ちに完全になくすことは難しいが、このような動物を使わない技術が発展すれば、動物にもやさしく、かつ人間の安心・安全のさらなる向上につながることが期待できるのである。実験動物たちへの配慮もまた、私たち自身に恩恵をもたらす可能性があるということである。
動物の福祉から広がる視野
上記のように、私たち人間と袖すり合う様々な動物たちの福祉を考えてみると、動物への配慮が、人間の生活の安心・安全・健康、環境問題や、科学技術など、様々な方面の課題と密接に関連しているということに気づかされるのである。以前の
記事
で、動物のための配慮が人間にも恩恵をもたらすことが多い点について述べたが、動物福祉という切り口から動物たちについて考えることにより、私たちの生活にかかわる様々な課題に目を向けることができ、より広い視野でものごとを考えられるようになるのかもしれぬ。
1)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/pickup/week.html
2)
https://wired.jp/2015/11/11/seaworld-end-killer-whale-show/
3)
Jones, K.E., Patel, N.G., Levy, M.A., Storeygard, A., Balk, D., Gittleman, J.L. & Dszak, P. (2008). Global trends in emerging infectious diseases. Nature, 451, 990-994.
4)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex%3A31999L0074
5)
https://www.aspca.org/improving-laws-animals/public-policy/farm-animal-confinement-bans
6)
https://www.wellbeingintlstudiesrepository.org/hsi_reps_fap/3
7)
https://www.hsi.org/wp-content/uploads/assets/pdfs/hsi-fa-white-papers/public_health_impacts_of.pdf
8)
https://www.ted.com/talks/geraldine_hamilton_body_parts_on_a_chip/transcript?language=ja
9)
https://www.youtube.com/watch?v=WU2h0fPZ1wg
カテゴリーから探す
・ペットとヒトの関係
・動物福祉
・動物介在介入(AAI)
・動物虐待と対人暴力 (LINK)
・【有料】ライブラリー
・【無料】ライブラリー
動物関連トピックス
・イベント・セミナー一覧ページはこちら
・動物関連情報はこちら
・メディア掲載情報はこちら
・電子資料カタログはこちら
コンテンツ
・法人概要
・決算公告
・ALRIについて
・ENGLISH(About ALRI)
・サービス一覧・料金表
・利用規約
・プライバシーポリシー
・特定商取引法に基づく表示
・開示請求等の手続きについて
・購入時にご確認ください。
フェイスブック