そこで、当法人では、動物専門職のための動物福祉教育の一助となればと願い、電子資料(PDF)「動物のプロフェッショナルのための動物福祉カリキュラム〜実践に即した『動物福祉』の知識を教えるために〜」の販売を開始した。例えば、上述した動物福祉が人間の生活とつながっているという点については、人と動物の福祉は一つであり連動していると謳う、世界的にも注目されている「ワンウェルフェア (One Welfare)」について理解する必要がある。また、本電子資料では、動物福祉論の礎となった5つの自由(The Five Freedoms)とその進化系である5つの領域(The Five Domains of Animal Welfare, 通称The Five Domains)モデルを紹介しながら、こうった概念を動物福祉の評価や実践などにどのように応用していけば良いのかについて解説している(これらの概念の概要については、当法人の動物福祉に関する無料記事を参照してほしい)。動物の福祉が人間の福祉と連動しているという点からすれば、もはやそれを無視することはできないはずである。では、今何をすれば良いのであろうか?社会全体の意識をより良い方向に向けていくには何が必要なのであろうか?それは教育である。
しかし、教育と一言で言っても、誰をどのように教育するのか、そしてその作業を担うのは誰であるべきか、このようなことも考えなければならないのである。
動物の福祉という概念をしっかりと社会に浸透させるための教育の実践者は、言うまでもなく「動物を知る者」である。その定義に当てはまる専門職は多数存在する。獣医師や愛玩動物看護師などの国家資格もあるが、それに加え展示動物の飼養管理者、ペット動物のトレーナーやトリマー、動物実験や畜産にかかわる者たち等々、多岐にわたり日常的に動物とかかわっている「専門家」は数多く存在するのである。この者たちが、皆自らが深くかかわっている動物たちの福祉に関する正しい情報の発信をしていけば、おそらく一般市民は耳を傾けてくれるであろう。そのためには、この者たちの教育の現場において動物福祉に関する正しい情報が提供されなければならないのである。上述した電子資料は、この点を意識して執筆されたものである。
言うまでもなく、電子資料(PDF)「動物のプロフェッショナルのための動物福祉カリキュラム〜実践に即した『動物福祉』の知識を教えるために〜」には、動物に対して「かわいい、かわいそう」という視点は一切登場しない。
そうではなく、今世界的にも注目されつつある「sentience」という言葉を取り上げている。「感覚」や「感情」などと訳され、近年多くの先進的な海外の動物福祉・動物保護の法令において動物たちが「sentient being (感覚のある生命体)」であると認められつつある昨今1)、この言葉が何を意味するか、そしてその意味をどのように人間の動物観に組み入れていくかを考えるのである。
これに関連して取り上げるのは「畏怖の念」である。人間がいかに自分しか見ていない動物であるかを考え、他の命に目を向けるだけではなく、それらに対して畏怖の念を持つことの大切さを理解することが必要である。命を大切にする、これは我々が幼い頃から度々言われてきたことである。しかし、「大切にする」という概念自体、人間の自己中心的な考え方の表れである。自分が動物を大切にするのではなく、自分以外の動物(人間も動物である)に対してそれらを「敬う」、すなわち「リスペクトする」という考え方が必要なのである。どのような小さな生き物であっても、地球環境の中でしっかりと果している役割があるのである。幼い子どもたちは、これらの小さな命に対する関心を豊富に備えているが、成長するにつれてその関心、つまりは「他者に向ける目」を失っていくのである。この現象が広がっていけば、人類は益々自己中心的になっていくであろう。それを食い止める努力を怠れば、人間にも負の影響が覆いかぶさってくるのである。これを是正するために必要なのが、動物福祉の真の意味の理解であり、それを広げていくためには、まずは動物に深いかかわりを持つ者たちが正しい発信を己の身をもって行っていくことが大切なのではなかろうか。電子資料(PDF)「動物のプロフェッショナルのための動物福祉カリキュラム〜実践に即した『動物福祉』の知識を教えるために〜」は、動物を生業とすることを目標として学びを続けている者たちを育成する場所で用いることができる教科書的な資料として活用してもらうことを意図して執筆されたものである。本電子資料が大学や専門学校などで幅広く活用され、動物の専門職を目指す学生が動物福祉に関して深い知識と理解を身に付けて羽ばたいていくことを願っている。