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無料記事40:動物福祉教育について考える

2026年6月17日 掲載

目次:
「動物福祉」という言葉を正しく理解する
動物の専門職のための動物福祉教育
動物福祉を実践に取り入れるための教育
感覚のある生命体である動物を真にリスペクトする


「動物福祉」という言葉を正しく理解する

近年、「動物福祉(アニマルウェルフェア)」という言葉がしばしばメディアなどにも登場するようになってきた。動物愛護という極めて主観的な用語と異なり、客観性を持つ動物福祉という言葉が用いられるようになったことは喜ばしいことであり、日本社会の動物に対する考え方が少しずつ変化してきたことの証でもある。しかし、言葉が用いられるようになった今でも、その本当の意味を理解できる人々はなかなか育っていないような気もするのである。
動物の福祉を守るということは、適切に飼う、虐待をしない等々、断片的に捉えられている場合が多いように感じる。社会全体を見渡すと、動物の福祉とは「動物をかわいがること」程度にしか受け止めていない人々がたくさんいるようである。動物の福祉とは何を指す言葉なのか、そしてそれが我々人間の生活とどうかかわってくるのかについて、じっくりと考えられる者たちにあまり遭遇することがないことは非常に残念である。そもそも、動物福祉を単体として考えること自体問題であり、その全容を理解しなければ人間にとっても都合の悪い状況が生じてしまうのである。

 

動物の専門職のための動物福祉教育


そこで、当法人では、動物専門職のための動物福祉教育の一助となればと願い、電子資料(PDF)「動物のプロフェッショナルのための動物福祉カリキュラム〜実践に即した『動物福祉』の知識を教えるために〜」の販売を開始した。例えば、上述した動物福祉が人間の生活とつながっているという点については、人と動物の福祉は一つであり連動していると謳う、世界的にも注目されている「ワンウェルフェア (One Welfare)」について理解する必要がある。また、本電子資料では、動物福祉論の礎となった5つの自由(The Five Freedoms)とその進化系である5つの領域(The Five Domains of Animal Welfare, 通称The Five Domains)モデルを紹介しながら、こうった概念を動物福祉の評価や実践などにどのように応用していけば良いのかについて解説している(これらの概念の概要については、当法人の動物福祉に関する無料記事を参照してほしい)。動物の福祉が人間の福祉と連動しているという点からすれば、もはやそれを無視することはできないはずである。では、今何をすれば良いのであろうか?社会全体の意識をより良い方向に向けていくには何が必要なのであろうか?それは教育である。
しかし、教育と一言で言っても、誰をどのように教育するのか、そしてその作業を担うのは誰であるべきか、このようなことも考えなければならないのである。
動物の福祉という概念をしっかりと社会に浸透させるための教育の実践者は、言うまでもなく「動物を知る者」である。その定義に当てはまる専門職は多数存在する。獣医師や愛玩動物看護師などの国家資格もあるが、それに加え展示動物の飼養管理者、ペット動物のトレーナーやトリマー、動物実験や畜産にかかわる者たち等々、多岐にわたり日常的に動物とかかわっている「専門家」は数多く存在するのである。この者たちが、皆自らが深くかかわっている動物たちの福祉に関する正しい情報の発信をしていけば、おそらく一般市民は耳を傾けてくれるであろう。そのためには、この者たちの教育の現場において動物福祉に関する正しい情報が提供されなければならないのである。上述した電子資料は、この点を意識して執筆されたものである。

 

動物福祉を実践に取り入れるための教育

動物福祉という概念を検討する際の枠組みとなる、前出の5つの自由とそれに続く5つの領域について知識を身に付けるだけでは、これらの概念をどのように実際の現場において応用していくのかについて十分に理解することは難しい。そのため、このような概念の実践への落とし込みを理解するための所謂「演習」のような課題を通した学びが求められる。
電子資料(PDF)「動物のプロフェッショナルのための動物福祉カリキュラム〜実践に即した『動物福祉』の知識を教えるために〜」では、課題となる動物種を選び、5つの領域モデルの各領域における当該動物の「理想」の暮らしや状況に関する情報を集め、さらにはその動物が飼育されている現状と照らし合わせて、「理想」と飼育状況を比較検討することにより、動物の福祉を客観的に評価する作業に関する理解を促すという演習方法を提案している。ネット検索が得意な世代にとっては、野生動物の自然な暮らしをくまなく調べ上げることは非常に簡単にできることである。小学生にでも応用が利く課題であろう。
次に、動物福祉について考えるきっかけとして、現代社会で頻繁に話題に上がるような動物関連の課題とその課題にまつわる情報なども提供する。学ぶ側は5つの領域モデルを枠組みに用いて、与えられた課題の動物関連問題をどのように解釈し、そして解決に導いていくかについて考えなければならない。まずは動物福祉の基本的な評価方法を学び、次にそれを応用しリアルな問題に当てはめていくという作業をさせていくということである。ペーパー上で学ぶだけでは、本当の理解を促すことは難しい。実際の問題に応用することで、動物の福祉がより現実味を帯びていくのである。
本電子資料では、さらに代表的な動物専門職を例に挙げ、その職業の中で動物福祉をどのように実践に応用していくのかについて考える提案もしている。日常的に動物にかかわる人間にとって、動物の福祉をどのように「自らの職」につなげて考えるかという課題を提供しているのである。学ぶ側にディベートやレポートなどの題材として提供することができるトピックスにもなる。

 

感覚のある生命体である動物を真にリスペクトする

言うまでもなく、電子資料(PDF)「動物のプロフェッショナルのための動物福祉カリキュラム〜実践に即した『動物福祉』の知識を教えるために〜」には、動物に対して「かわいい、かわいそう」という視点は一切登場しない。 そうではなく、今世界的にも注目されつつある「sentience」という言葉を取り上げている。「感覚」や「感情」などと訳され、近年多くの先進的な海外の動物福祉・動物保護の法令において動物たちが「sentient being (感覚のある生命体)」であると認められつつある昨今1)、この言葉が何を意味するか、そしてその意味をどのように人間の動物観に組み入れていくかを考えるのである。
これに関連して取り上げるのは「畏怖の念」である。人間がいかに自分しか見ていない動物であるかを考え、他の命に目を向けるだけではなく、それらに対して畏怖の念を持つことの大切さを理解することが必要である。命を大切にする、これは我々が幼い頃から度々言われてきたことである。しかし、「大切にする」という概念自体、人間の自己中心的な考え方の表れである。自分が動物を大切にするのではなく、自分以外の動物(人間も動物である)に対してそれらを「敬う」、すなわち「リスペクトする」という考え方が必要なのである。どのような小さな生き物であっても、地球環境の中でしっかりと果している役割があるのである。幼い子どもたちは、これらの小さな命に対する関心を豊富に備えているが、成長するにつれてその関心、つまりは「他者に向ける目」を失っていくのである。この現象が広がっていけば、人類は益々自己中心的になっていくであろう。それを食い止める努力を怠れば、人間にも負の影響が覆いかぶさってくるのである。これを是正するために必要なのが、動物福祉の真の意味の理解であり、それを広げていくためには、まずは動物に深いかかわりを持つ者たちが正しい発信を己の身をもって行っていくことが大切なのではなかろうか。電子資料(PDF)「動物のプロフェッショナルのための動物福祉カリキュラム〜実践に即した『動物福祉』の知識を教えるために〜」は、動物を生業とすることを目標として学びを続けている者たちを育成する場所で用いることができる教科書的な資料として活用してもらうことを意図して執筆されたものである。本電子資料が大学や専門学校などで幅広く活用され、動物の専門職を目指す学生が動物福祉に関して深い知識と理解を身に付けて羽ばたいていくことを願っている。

 
  • 1) 例として、イギリスの「Animal Welfare (Sentience) Act 2022」を挙げる:https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2022/22

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