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無料記事32:それって、動物のため?②

2024年9月9日 掲載

目次:
高まる動物への配慮を求める声、その活動は人間にも恩恵をもたらす!?
地球規模でみると、動物は私たち社会にとっては大切な「資源」になることも
ミクロなレベルでも、動物を救済することが、人間の救済にもつながる
地球上で暮らす他の生命へのやさしさは、私たち人間に返ってくる


高まる動物への配慮を求める声、その活動は人間にも恩恵をもたらす!?

「動物への配慮を」という声が世界中でますます高まっている中、今まで以上に「動物にとってやさしい製品を使いたい」、「動物を保護する取り組みに貢献したい」など、一般消費者の動物に対する理解も深まり動物福祉に対する意識も少しずつ高まっているような印象を受ける。そんな動物の保護のため、動物に対する配慮のためと行っている取り組みが実は私たち人間にも恩恵をもたらす可能性があるという点は以前にも考察した通りであるが、今回も、動物のためと展開されている活動が、地球規模のマクロなレベルにおいても、地域社会や家庭内などの狭い範囲のミクロなレベルにおいても、実は人間にとっても恩恵があることを物語る例について考えてみたい。

 

地球規模でみると、動物は私たち社会にとっては大切な「資源」になることも

スケールの大きい話をすると、私たち人間社会はひとつの「資源」として動物たちに頼っている側面が多々ある。代表的な例を挙げると、私たちの食卓に並ぶ食事の多くは動物由来製品であり、食糧面で、人類は動物たちに大きく頼っているのが現実である。また、食べ物以外でも、毛皮など日用品を作るための材料で動物にお世話になっているケースもあり、また私たちが日々使う製品を開発したり、その安全性を評価したりするためにお世話になっている実験動物たちも、今まで人間社会が「資源」として頼ってきている動物たちと言えよう。
そんな中、私たちが「動物保護」を謳って取り組んでいる活動は、私たちが資源として頼っている動物たちにより配慮することを目指すものもある。このような活動も実は動物たちに留まらず、私たち人間の生活に恩恵をもたらすこともあるのである。例えば、今地球上で様々な動物種が絶滅の危機に瀕しており、それらを保全するための様々な取り組みが展開されている。野生動物保護の活動は多くの場合「動物たちを絶滅の危機から救う」という目標を掲げ展開されているが、実は地域によってはこれらの希少な動物たちが貴重な観光資源となっていることをご存じであろうか。例えば、ケニアなどのアフリカの国々では、個体数が減少している大型の野生動物たちがサファリなどで観光の目玉となっている現状がある。そして、これらの国にとっては、観光が主要な産業であり、雇用を創出するなど国の経済に大きく貢献しているのである。1)このような中、野生動物の個体数が減少し、絶滅してしまうということは、その動物種や生態系にとってはもちろんのこと、観光資源としてその野生動物たちに頼っている地域にとっては、人間社会をも脅かす大ダメージになりかねない。この地域の人々にとって、野生動物を守ることは、すなわち自分たちの観光資源、ひいては経済を守り、人間たちの生活を維持することにもつながるのである。
また、最近では私たちの生活が海洋生物に及ぼす影響が懸念されている。例えば、私たちが生活で使って廃棄するプラスチックが海を汚染し、そこに生息する生き物に甚大な影響を及ぼす2)ことは徐々に認知されてきており、生態系を保全するためにプラスチックの利用を削減する取り組みが様々な場面で実施されている。また、それ以外にも日焼け止めに使われている紫外線吸収剤がサンゴ礁やその他の海洋生物に害があることが調査研究3)により明らかになり、海の生き物たちを保護するために、有害な成分を含む日焼け止めを規制している国や地域もある。このような野生動物たちに対する危害を抑えようとする取り組みも、実は私たち人間社会全体の安心・安全につながる可能性がある。私たち人間社会は食糧をはじめとして、「海の恵み」に頼った生活をしていることは間違いない。その海の生態系にダメージがあれば、私たちの資源にとってもダメージとなることは言うまでもない。また、生物たちが体内に取り入れてしまった化学物質は、食物連鎖を通して蓄積し、人間の体内に取り込まれる可能性がある。マイクロプラスチックについても、このような懸念を示す研究者もいる。4)このような食物連鎖を通した暴露の量は、ただちに人間の健康への影響はないようであるが、ともすると野生動物への配慮が、人間の健康にかかわる課題と密接につながることもあることを実感させられる例である。そして、こういった観点からも、昨今しきりに取り上げられるSDGsにおける「動物」の位置付けを真剣に考える必要があるということも付け加えられるであろう。

 

ミクロなレベルでも、動物を救済することが、人間の救済にもつながる

上記のような事例は地球環境全体のレベルの話であるが、地域社会や家庭内などのよりミクロなレベルでも、動物への配慮が人間の救済につながり得る事例はたくさんある。例えば、以前の記事で紹介したように、家庭内暴力と動物虐待は同じ家庭で発生しているリスクが高く、したがって、家庭内におけるペットの扱いに注意を払うことにより、家庭内暴力を早期発見することにつなげることができる。すなわち、動物虐待の被害にあっているペットに対応することが、人間に対する家庭内暴力の早期発見につながるかもしれないということである。また、これだけではなく、所謂多頭飼育崩壊と呼ばれる「アニマル・ホーディング」もその家庭で動物たちと共に暮らしている当事者である人間のメンタルヘルス、身体的健康や、生活の困難などの課題と同時発生しているケースが多く、多頭飼育崩壊現場でネグレクトされているたくさんの動物たちと共に、当事者が抱える課題にも対応することが求められる場合もある。
加えて、ペットを獣医科病院に連れてきた飼い主が生活に困窮している、飼い主の健康状態が悪化している等々、人間側にも支援が必要な状況が、獣医療の診療現場で露呈するというケースも近年浮上してきており、ペットが支援の手を必要としている家庭においては人間も支援が必要な状況にある可能性が高いという視点を持つ関係者も増えてきている。経済的に生活が困窮している飼い主が自らの生活もギリギリの状態で猫を何とか養っているが、その猫にも十分な食事を与えることができず栄養失調になってしまい、獣医科病院に駆け込んだ… 等々、飼い主である人間も生活支援につなげることが必要であると同時に、猫もケアが必要なこのような状況がその典型例である。こういったケースが散見される中、例えば記憶に新しいコロナ禍における生活苦に対して、人間とペット双方を対象とし、宿泊先や食事などの支援を展開させている団体もある。5)また、このように人間と動物の生活環境や生活上の課題が度々交差することを鑑み、そのような場面の様々な課題に対応する「Veterinary Social Work (VSW)」という分野が欧米で台頭しはじめている。生活環境が整備されなければ、そこで暮らす人間も動物も等しく苦しい思いをしている可能性が高い。そんな場面において動物に支援の手を差し伸べることは、結果人間側の課題を露呈させ、人間に対する支援提供へもつながるのである。

 

地球上で暮らす他の生命へのやさしさは、私たち人間に返ってくる

上記のように、「動物のため」、「動物を救いたい」と考え展開されている活動や取り組みが、結果人間に恩恵をもたらし、必要な人間に支援の手を差し伸べるきっかけになり得るのである。我々人間と動物たちは、同じ地球上の同じ空間で、同じ資源を分け合って共に生活している。そのような運命共同体の「同士」である動物たちに配慮することで、そのやさしさは、私たち人間に返ってくるのではないだろうか。

1) Damania, R., Desbureaux, S.G., Scandizzo, P.L., Mikou, M., Gohil, D.B. & Said, M.F.P. (2019). When Good Conservation Becomes Good Economics: Kenya’s Vanishing Herds (English). Washington, D.C.: World Bank Group. http://documents.worldbank.org/curated/en/465881576053357383/When-Good-Conservation-becomes-Good-Economics-Kenya-s-Vanishing-Herds
2) https://wwfint.awsassets.panda.org/downloads/wwf_impacts_of_plastic_pollution_on_biodiversity.pdf
3) https://link.springer.com/article/10.1007/s00244-015-0227-7
4) https://www.alterna.co.jp/47976/?fbclid=IwAR0V_4dUhEF9lf9cfCtRH2DWtWVdwKYkjgDYvBuZFjJbYJtq0ePf8XDPMV4
5) https://www.asahi.com/articles/ASQ686GR1Q64ULZU005.html?iref=pc_ss_date_article&fbclid=IwAR05yIjg7MlDN_qBqHXT6AcVFlRMevWV2XkAv8cRsGAOkWLce_vWnPEHpRM

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