上記のような事例は地球環境全体のレベルの話であるが、地域社会や家庭内などのよりミクロなレベルでも、動物への配慮が人間の救済につながり得る事例はたくさんある。例えば、以前の記事で紹介したように、家庭内暴力と動物虐待は同じ家庭で発生しているリスクが高く、したがって、家庭内におけるペットの扱いに注意を払うことにより、家庭内暴力を早期発見することにつなげることができる。すなわち、動物虐待の被害にあっているペットに対応することが、人間に対する家庭内暴力の早期発見につながるかもしれないということである。また、これだけではなく、所謂多頭飼育崩壊と呼ばれる「アニマル・ホーディング」もその家庭で動物たちと共に暮らしている当事者である人間のメンタルヘルス、身体的健康や、生活の困難などの課題と同時発生しているケースが多く、多頭飼育崩壊現場でネグレクトされているたくさんの動物たちと共に、当事者が抱える課題にも対応することが求められる場合もある。
加えて、ペットを獣医科病院に連れてきた飼い主が生活に困窮している、飼い主の健康状態が悪化している等々、人間側にも支援が必要な状況が、獣医療の診療現場で露呈するというケースも近年浮上してきており、ペットが支援の手を必要としている家庭においては人間も支援が必要な状況にある可能性が高いという視点を持つ関係者も増えてきている。経済的に生活が困窮している飼い主が自らの生活もギリギリの状態で猫を何とか養っているが、その猫にも十分な食事を与えることができず栄養失調になってしまい、獣医科病院に駆け込んだ… 等々、飼い主である人間も生活支援につなげることが必要であると同時に、猫もケアが必要なこのような状況がその典型例である。こういったケースが散見される中、例えば記憶に新しいコロナ禍における生活苦に対して、人間とペット双方を対象とし、宿泊先や食事などの支援を展開させている団体もある。5)また、このように人間と動物の生活環境や生活上の課題が度々交差することを鑑み、そのような場面の様々な課題に対応する「Veterinary Social Work (VSW)」という分野が欧米で台頭しはじめている。生活環境が整備されなければ、そこで暮らす人間も動物も等しく苦しい思いをしている可能性が高い。そんな場面において動物に支援の手を差し伸べることは、結果人間側の課題を露呈させ、人間に対する支援提供へもつながるのである。