一般社団法人アニマル・リテラシー総研
  • ALRIについて
  • ENGLISH
  • サービス一覧・料金表
  • お問い合わせ
  • ライブラリー(無料)
  • ライブラリー(有料)

無料記事33: 「アニマル・リスペクト」について考える 〜動物たちを真に理解し、その尊厳を守ることとは〜

2024年11月22日 掲載

目次:
「アニマル・リスペクト」とは
動物たちが展開させる多様な行動に見る人間との「共通項」
人間のおごり
真に人が人であるために


「アニマル・リスペクト」とは

「動物たちを大切にしよう」、「動物の福祉を守ろう」などという気持ちは多くの人々に共通することであると思われるが、ただ命を大切にするという主張をするだけで良いのだろうか。動物たちがいかに我々と同等の存在であるかを人間はもっと理解するべきである。言い換えれば、彼らに対する「リスペクト」を人間は持つべきなのではないだろうか。
我々人間は、常に上から目線で動物たちを見てきたようである。彼らをいかに「助けるか」、いかに「上手に飼育するか」、いかに彼らの「福祉を守るか」等々、人間は自分たちが何かを動物に対して「行う」という考え方を主体として行動してきたと思われる。しかし、我々人間も動物であり、それをまず自覚する必要があるのではなかろうか。人間同士、互いの長所や短所を理解しあうのと同じく、人は様々な動物たちの行動を同じ目線で見る必要があるのではなかろうか。そして、それを実践するといかに彼らと我らが同じ生き物であるかが明白になっていく。

 

動物たちが展開させる多様な行動に見る人間との「共通項」

例えば、南極大陸に生息するペンギンであるが、極寒の地の過酷な環境下にての巣作りは大変である。寒さ対策として、巣の土台にはたくさんの小石を敷くのである。言い換えれば、使用できる材料がそれしかないからであるが、オスのペンギンは石を運ぶ作業を延々と続けなければならない。くちばしで拾った石を何度も運ぶのであるが、時にはずる賢い輩が他者が運んできた石を盗んでしまうことがある。しかし、ペンギンの世界ではこれは許しがたい犯罪であり、それが露見した際には盗まれた被害者のみならず群れ全体が盗人に立ち向かうのである。人間の世界でも盗みに対する社会的制裁は当たり前であるが、これは人間世界特有の現象ではないようである。1)
また、動物が道具を使用することは、様々な場面で確認されていることである。チンパンジーの研究で有名なジェーン・グドールは、チンパンジーの観察から彼らが枝を用いてアリの巣からシロアリを「釣り上げる」ことを発見している。さらには、彼らが肉を食することも発見しているのである。チンパンジーの中には枝を用いて槍のような道具を作成し、木の穴に潜むショウガラコを刺し殺すというような狩りをする者もいるそうである。2)我々人間と限りなく似た行動を展開させる彼らを単に「サル」という一言で下に見がちなことを反省すべきかもしれぬ。
上記が人間と近い存在である動物種であるが故の行動ではないかと考える者もいるであろう。道具の使用は霊長類に限ったことではない。鳥の行動を研究する試みの中で、エジプトハゲワシはダチョウの卵に石をぶつけ、割ってからそれを食すという行動を展開させることが観察されているが、実は実験者がまず卵を割ってそれが食料になることを示した後にその行動が展開されたのである。3)つまり、鳥たちは、食料をこのようにして手に入れることができるということを学んだ結果、この行動を展開させたということが言えるのである。

 

人間のおごり

我々人間は極めて自己中心的なナルシストであり、他の生物の本質に対する関心が希薄な存在であるとしか言いようがない。あたかも自分たちが食物連鎖の頂点に立ち、科学的知識や文化的営みなどをすべて独占していると考えているのである。このような考え方に基づいた世界観を持つ人類は、他の動物たちがいかに幅広い想像力や知識を有するかなどということを考えずに今まで生きてきたのではなかろうか。
1950年代に初版が出版された動物の知性に関する書籍の中で、アジアゾウとアフリカゾウの訓練性能に言及している箇所があるが、サーカスなどで芸を披露しているのはアジアゾウが多くアフリカゾウは芸などを覚えることがなかなかできない「頭の悪い」種であると考えられていたと書かれている。しかし、この書籍にはどのようにしてそれが検証されたのかも記載されているのである。食べ物を得るための仕掛けが作られ、それをゾウたちに操作させようという試みが行われたのである。紐を引くと食べ物が手に入るというこの仕組みを、アジアゾウは難なく覚えたのである。しかし、アフリカゾウは装置とそれに付いている紐という見慣れぬ物体を警戒し、それに近づくことさえしなかったという状況が観察されたのである。1)これは「インテリジェンス」というよりも特定の動物種の本来の性質に起因する課題であって、自然の中での生活においてアフリカゾウがどのような知識を持ち、それらに基づいた行動を展開させているかとは、いささか異なるものだったのではなかろうか。しかし、人間は愚かにも、自分の持つ尺度でしか動物の「知性」を計ろうとしなかったのであろう。
2008年、中国のサル使いがパフォーマンス中に3匹のサルのうち号令に従わなかった1匹をこん棒で殴ったが、その直後に他の2匹がサル使いに襲いかかり首に咬みつき、殴られた1匹がこん棒を拾い上げ、それでサル使いを殴り倒したという事件が発生した。4)正に人間同士の喧嘩である。仲間が襲われたら加勢する、これは人間界だけの掟ではない。自分を殴ったこん棒を加害者にも味合わせてやる、これも我々人間でも十分に理解できる行動であろう。動物たちは常に考えて行動を展開させているのであり、決してその場その場の衝動で動いているわけではない。
野生動物の群れの中で、妊娠中や子育て中の雌の個体が優遇される場面が様々な形で展開されるという報告はしばしば耳にすることがあるが、それらはすべて子孫を残すため、種の存続を保証するための行動であり、生物学的には理にかなったものであると分析されているようである。しかし、人間が公共の場で妊婦に配慮した振る舞いを展開させたなら、おそらく周囲はそれを「配慮」、「やさしさ」等々の言葉を用いて評価するであろう。さてさて、一体どこが違うのであろう?
人間が嫌な存在として忌み嫌う蚊は、卵を産むためにメスが動物の血を吸い、様々な感染症を媒介することで知られているが、蝶や蜂のように農作物を支える受粉者ともなる。人間は「人道主義」という言葉を作り出し、愚かな者たちに対してその行動は「人としてどうなのか?」と問いかける。「人間性」とは何かと常に自問自答している人々が、豚として、猫として、ゾウとしてという視点を持っていないのは当たり前かもしれぬが、あたかも「人間性」が最も崇高なものであるかのような物言いには疑問を持たざるを得ない。
「沈黙の春」の著者であるレーチェル・カーソンが書いた「The Sense of Wonder (ザ・センス・オブ・ワンダー)」5)は有名であるが、彼女の言うこの「センス・オブ・ワンダー(人間が周囲に対して持ち得る驚きと畏敬の念)」を我々は忘れてしまっているのではなかろうか。自己中心的なナルシストである人類は、他の生き物たちとの生活が「お互い様」の関係に基づいて成り立っていることさえ忘れてしまっているようである。考えてみれば、人間は自分たち以外の命を自らの利のために実験に用いる、娯楽のために自然の中で暮らす彼らを狭い場所に閉じ込めたりする、自らへの「害」を理由として多くの種を駆除していく、自分たちの生活の発展のために彼らの生息地を奪い続ける、大量の安価な食を手に入れるために過密な畜舎に彼らを閉じ込める… そういった行動を日々特に自問自答することなく、展開させているのである。

 

真に人が人であるために

このような人間の行動を見ていると、他者に目を向けずに突き進んできた人類がいかに特権階級のごとく振舞ってきたかがうかがわれる。しかし、今や地球は過去に恐竜などの古代生物が消滅してきた五つの大絶滅期に次いで第6大絶滅期に突入していることがしばしば報道などで取り上げられている中、人間が他の命に関心とリスペクトを持ち対応していくことの重要さを再認識するべきであろう。現代の科学がもたらしてくれている情報を見れば、いかに生物同士が互いに支えあって自然が回っているかは明らかである。人間はその一部でしかなく、支配者でも神でもない。人間社会における「互いを敬う」ことや「認め合って生きる」ことの大切さは、子どもたちに教えなければならない重要な概念であるが、その対象の範囲を広げて、他の生物をも網羅するという考え方を我々は持たなければならないのである。これこそが、人が人として生きるべき道であろう。
ハワイの人々に昔から伝わる「kahu」という言葉がある。Kahuとは我々人間のことである。その意味は守護者、管理人、守り人としての役割を賜った者である。そして、kahuとは大切なものを守る役目を託された者である。Kahuが守っているものは、自分の所有物ではない。Kahuが守っているのは自らの魂である。動物たちのありのままの姿をリスペクトし、理解することでこそ、同じ時空を共有する動物たちの守り人としての役目を全うでき、真に人が人であることができるのではないだろうか。

1) Packard, V. (1961). The Human Side of Animals. New York: Pocket Books, Inc.
2) Grandin, T. & Johnson, C. (2009). Animals Make Us Human. New York: Houghton Mifflin Harcourt Publishing Company.
3) Angier, N. (December 13, 2023). The smartest guests at death’s table. The New York Times International Edition, pp. 15.
4) Hribal, J. (2010). Fear of the Animal Planet the Hidden Story of Animal Resistance. Oakland, California: AK Press.
5) Carson, R. (1998). The Sense of Wonder. HarperCollins Publishers: New York.

カテゴリーから探す

  • ・ペットとヒトの関係
  • ・動物福祉
  • ・動物介在介入(AAI)
  • ・動物虐待と対人暴力 (LINK)
  • ・【有料】ライブラリー
  • ・【無料】ライブラリー

動物関連トピックス

  • ・イベント・セミナー一覧ページはこちら
  • ・動物関連情報はこちら
  • ・メディア掲載情報はこちら
  • ・電子資料カタログはこちら

コンテンツ

  • ・法人概要
  • ・決算公告
  • ・ALRIについて
  • ・ENGLISH(About ALRI)
  • ・サービス一覧・料金表
  • ・利用規約
  • ・プライバシーポリシー
  • ・特定商取引法に基づく表示
  • ・開示請求等の手続きについて
  • ・購入時にご確認ください。
  youtube

フェイスブック


  • ホーム
  • 法人概要
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー
  • 特定商取引法に基づく表示
  • お問い合わせ

© 2025 一般社団法人アニマル・リテラシー総研 All Rights Reserved.